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2025年10月号のテーマは徐放性製剤の注意点について!
徐放性製剤の注意点について~粉砕・分割してはいけない薬とは?〜
1. はじめに
- 「錠剤が大きくて飲みにくいから割って飲んでもいいですか?」
- 「粉砕してもらえますか?」
このようなご質問を患者さんや施設の方から頂くことがあります。特にそれが問題のない薬もありますが、なかには割ったり砕いたりしてはいけない薬が存在します。そのうちの一つが「徐放性製剤」と言われる薬です。今回はこの徐放性製剤について、なぜ粉砕や分割ができないのか、具体的にどのような薬があるのかなどをわかりやすく解説していきます。
2. 徐放性製剤とは?
徐放性製剤の目的
徐放性製剤は徐放、つまり薬の成分が徐々にゆっくりと体に吸収されるように工夫された薬です。
主なメリット:
- ✓服用回数を減らせる(1日3回→1日1回など)
- ✓薬の効果が長時間持続する
- ✓血中濃度の急激な変動を防ぎ、副作用を軽減できる
仕組みのイメージ(例)

- ✓錠剤の表面にコーティングを施す
- ✓錠剤内部に特殊な顆粒を配合する
- ✓カプセル内に放出速度の異なる顆粒を組み合わせる
これらの工夫により、薬が少しずつ溶け出すような仕組みになっています。
3. 何で粉砕・分割したらダメなの?
粉砕・分割したらダメな理由
徐放性製剤を粉砕・分割・噛み砕くと、上述したようなコーティングなど徐々に溶ける仕組みが壊れてしまい、薬が一気に体に吸収されることになってしまうからです。
起こりうる問題の一例
- ・急激な血圧低下 → めまい、失神
- ・呼吸抑制 → 息苦しさ、呼吸困難
- ・意識レベルの低下 → 眠気、意識障害
- ・期待する効果が得られない → 薬が早く排出されるので、持続時間が短くなる
日本医療機能評価機構が発行している医療安全情報 No.158(徐放性製剤の粉砕投与)では、実際に誤って徐放性製剤を粉砕して経鼻栄養チューブから投与するなどして、患者さんに影響があった事例が4件報告されています。
●医療安全情報 No.158 「徐放性製剤の粉砕投与」 https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_158.pdf
4. 販売名から見分けるポイント
徐放性製剤を示す記号
一部の徐放性製剤には、製剤の特徴を示す記号が付いています:
- CR錠: Controlled Release(放出をコントロール)
例)ニフェジピンCR錠、アダラートCR錠、レキップCR錠 - SR錠: Sustained Release(放出を持続)
例)バルプロ酸ナトリウムSR錠 - LA錠: Long Acting(長く効く)
例)ケアロードLA錠、ユニフィルLA錠 - R錠: Retard(遅らせる)
例)デパケンR錠、セレニカR錠
⚠️注意: すべての徐放性製剤に記号が付いているわけではありません。販売名だけでは判断できない製剤も多数あります。
5. 特に注意が必要な徐放性製剤
代表的な徐放性製剤には以下のようなものがあります。製薬企業から注意喚起のお知らせ文書が出ているものに関してはリンクも併記しているのでご参照ください。
🫀 循環器系
- アダラートCR錠/ニフェジピンCR錠 (高血圧・狭心症治療) 【お知らせ文書→https://www.pmda.go.jp/files/000248347.pdf】
- ケアロードLA錠 (末梢循環障害)
- エブランチルカプセル (排尿障害・降圧)
🫁 呼吸器系
- テオドール錠/ユニフィルLA錠/ユニコン錠 (気管支喘息・COPD)
🧠 神経・精神系
- デパケンR錠/セレニカR錠/バルプロ酸ナトリウムSR錠 (てんかん・躁病)
- コンサータ錠 (ADHD)※流通管理医薬品
- インチュニブ錠 (ADHD) 【お知らせ文書→https://www.pmda.go.jp/files/000273466.pdf】
- インヴェガ錠 (統合失調症)
- レグナイト錠 (レストレスレッグス症候群)
💊 疼痛管理
- ナルサス錠 (がん疼痛)※麻薬
- ワントラム錠 (慢性疼痛・がん疼痛) 【お知らせ文書→https://www.pmda.go.jp/files/000240699.pdf
🚽 泌尿器系
- ベタニス錠 (過活動膀胱) 【お知らせ文書→https://www.pmda.go.jp/files/000249811.pdf
- トビエース錠 (過活動膀胱)
🩺 その他
- フェロ・グラデュメット錠 (鉄欠乏性貧血)
- グラセプターカプセル (免疫抑制剤)
- プロタノールS錠 (心機能改善)
- レキップCR錠 (パーキンソン病) 【お知らせ文書→https://www.pmda.go.jp/files/000251718.pdf
※上記はあくまでも一例であり、必ずしも徐放性製剤すべてを網羅しているわけではありません
コラム:OROS®プッシュプルシステムとは?(クリックorタップで開きます)
インヴェガやコンサータでは、OROS®プッシュプルシステムという特徴的な徐放機構が採用されています。
技術的特徴:
- ・OROS®プッシュ-プル型浸透圧ポンプを採用
- ・錠剤の片側にレーザーで開けた小孔(0.2-0.4mm)から薬物を放出
- ・胃腸の運動に影響されず、約24時間にわたりほぼ一定速度で放出
- ・食事の影響を受けにくい設計
仕組み:
- 1.半透膜から水分が浸入
- 2.浸透圧層(プッシュ層)が膨張
- 3.薬物層(プル層)が小孔から押し出される
- 4.不活性な錠剤殻が便中に排泄される
ポイント:
・粉砕・分割不可:粉砕したり割ったりすると、このOROS®システム全体が破壊されてしまいます
・便に錠剤の殻が出てきますが、薬はすでに吸収されているので問題ありません
6. 患者さんへのお願い
安全に薬を使うために
- ❌ 勝手に錠剤を割ったり、砕いたり、噛んだりしないでください
- 💊 錠剤が大きくて飲みにくい場合は、必ず薬剤師や医師にご相談ください
- 🔄 ほかの剤形(液剤、貼付剤、口腔内崩壊錠など)に変更できる場合があります
- ⚠️ 「CR」「SR」「LA」「R」などの記号が付いた薬は特に注意が必要です
こんなときはご相談を
- ✓錠剤が大きくて飲み込めない
- ✓薬の数が多くて管理が大変
- ✓経管栄養チューブを使用している
- ✓薬の効果や副作用について不安がある
まとめ
徐放性製剤は、患者さんの服薬負担を減らし、効果を安定させる優れた製剤です。しかし、粉砕・分割したり、噛み砕いたりしてしまうことで重大な健康被害が生じる可能性があります。
もし薬の服用に関して問題や不安がある際には、お気軽に薬局スタッフまでご相談ください。
参考情報
- ・PMDA医療安全情報 No.65(2023年3月)
「徐放性製剤の取り扱い時の注意について」:https://www.pmda.go.jp/files/000251752.pdf - ・公益財団法人 日本医療機能評価機構
薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業 - ・各製薬企業の添付文書・インタビューフォーム
- ・PMDAホームページ: https://www.pmda.go.jp/