
帯状疱疹と帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹とは?
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(水ぼうそうのウイルス)が再活性化することにより発症する疾患です。子どものころ水痘(水ぼうそう)にかかったときに体内の神経節に潜伏したウイルスが、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに再び活動を始める(再活性化する)ことで発症します。発症率は50歳を過ぎると上昇していき、70歳台で発症する方が最も多く、80歳までには約3人に1人が発症するとされています。
主な症状として神経に沿って体の片側に帯状に痛みを伴う水疱(水ぶくれ)が出現します。また、合併症の一つに「帯状疱疹後神経痛」というものがあり、皮膚の症状が治ったあとも痛みが残ることがあり(針で刺されるような痛み、電気が走るような痛み、しびれの強い痛み、衣服が擦れたり冷風にあたったりする軽微な刺激で増強する痛み1)などと形容される)、日常生活や睡眠に支障をきたすこともあります。
帯状疱疹ワクチンとは?
帯状疱疹ワクチンは、上述した帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛などの合併症を予防することができ、ガイドライン1)でも接種することが強く推奨されています。65歳の方などへの予防接種が、2025年から予防接種法に基づく定期接種の対象になりました。現在、日本では生ワクチンと不活化ワクチン、2種類の帯状疱疹ワクチンが承認されています。
✔ 生ワクチンと不活化ワクチンの比較
生ワクチン | 不活化ワクチン | |
---|---|---|
名称 | 乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」 | シングリックス |
接種方法 | 1回 | 2回(2か月間隔) |
接種回数 | 皮下注射 | 筋肉内注射 |
費用(※札幌市の場合) | 4,500円 | 10,800円(2回接種で21,600円) |
予防効果 | 接種後1年時点で約60% 接種後5年時点で約40% | 接種後1年時点で約90%以上 接種後5年時点で約90% 接種後10年時点で約70% |
効果持続期間 | 約5年程度 | 約10年以上 |
免疫不全者への接種 | 接種不可 | 接種可能 |
定期接種の対象年齢 | 年度内に65歳になる方など | 年度内に65歳になる方など |
副反応の頻度 | 30%以上:注射部位の発赤 10%以上:注射部位のそう痒感・熱感・腫張・疼痛・硬結 1%以上:発疹、倦怠感 | 70%以上:注射部位の疼痛 30%以上:注射部位の発赤、筋肉痛、疲労 10%以上:注射部位の腫れ、胃腸症状、悪寒、発熱 1%以上:痒み、倦怠感、その他の疼痛 |
生ワクチンの効果や副反応は?
生ワクチンについて、米国で行われた臨床試験2)において、帯状疱疹の発症頻度はワクチンを打つことで51.3%減少、帯状疱疹後神経痛は66.5%減少、疾病負荷(健康状態の悪化)も61.3%減少したことが報告されており、副反応も接種した部位の局所反応(注射部位の発赤、腫脹、疼痛など)が主で重篤なものは見られなかったと報告されています。
ただ海外での長期追跡調査3)では、生ワクチンの帯状疱疹の発症予防効果は8年、疾病負荷に対する効果は10年で統計学的に有意な効果が消失することが判明しています。
また、生ワクチンであるため、妊婦、非寛解状態の血液がん患者、造血幹細胞移植後、固形がんで3カ月以内に化学療法を施行した患者、免疫抑制療法施行中の患者やHIV患者など帯状疱疹発症リスクが高い患者に禁忌であることには注意が必要です。
不活化ワクチンの効果や副反応は?
不活化ワクチンは、日本を含む各国で行われた臨床試験4)において平均 3.2年間の観察期間中でワクチンによる帯状疱疹発症阻止効果は97.2%だったと報告されています。その後の追加の試験と解析の結果5)でも、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の発症阻止率はそれぞれ91.3%と88.8%でした。
一方、主な副反応は、局所性(注射部位)の疼痛78.0%、発赤38.1%、腫脹25.9%であり、これらの症状の持続期間の中央値は3.0日でした。主な全身性(注射部位以外)の副反応は、筋肉痛40.0%、疲労38.9%、頭痛32.6%でした。軽度~中程度で一過性のものが主であり安全性は確保されていますが、こういった副反応の発現率が生ワクチンと比較して高いことには留意しておく必要があるでしょう。
また、長期追跡調査での接種後8年目でのワクチン有効率も84%と、高く保たれていることがわかっています。
副反応への対処法は?
注射部位の症状への対処として、疼痛・腫脹・発赤に対しては、冷却パックで冷やす(直接肌に当てずにタオルなどで包む)こと、市販の解熱鎮痛薬の使用、患部を清潔に保つこと、激しい運動を避けることなどを意識するようにしましょう。
通常、副反応は2、3日で改善するとされています。発熱・頭痛・倦怠感など症状が続く場合などは十分な休息を取り、水分補給を心がけるようにしましょう。もし長引く場合は医療機関に相談してください。
まとめ
帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹とその後遺症である帯状疱疹後神経痛の予防に大変有効です。生ワクチンと不活化ワクチンの違いについて理解しておきましょう。副反応の多くは軽微で一時的なものであり、正しい知識を持って適切に対処すれば過度に必要する必要はありません。
札幌市の詳しい条件や費用、必要書類などは市のホームページに(それ以外の方は各市町村のホームページに)まとまっているので、対象者の方はチェックしてみてください。
参考文献
(1)帯状疱疹診療ガイドライン策定委員会編、帯状疱疹診療ガイドライン2025、日皮会誌:135(3),527-556,2025(令和7年)
(2)Oxman MN, Levin MJ, Johnson GR, et al: A vaccine toprevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults, N Engl J Med, 2005; 352: 2271―2284.
(3)Schmader KE, Levin MJ, Gnann JW Jr, et al: Efficacy, safety, and tolerability of herpes zoster vaccine in per sons aged 50-59 years, Clin Infect Dis, 2012; 54: 922―928
(4) Lal H, Cunningham AL, Godeaux O, et al: Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults, N Engl J Med, 2015; 372: 2087―2096.
(5)Cunningham AL, Lal H, Kovac M, et al: Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older, N Engl J Med, 2016; 375: 1019―1032.